1. いま何が起きているのか
2025年秋、OpenAIが発表した「Instant Checkout(インスタント・チェックアウト)」は、
ChatGPT内でそのまま商品を購入できる仕組みです。
「彼女の誕生日におすすめのジュエリーを探して」
「これ、いいね。買いたい」
これだけで、ChatGPTが購入画面を表示し、チャットの中で支払いまで完結します。
もうサイトを開く必要すらありません。この裏側で動くのが、OpenAIとStripeが共同で作った
ACP(Agentic Commerce Protocol)という新しい技術ルールです。
2. ACP(Agentic Commerce Protocol)とは?
ACPは、AIとお店(ECサイト)がやり取りするための共通言語(プロトコル)です。
これまでは「AIが商品を見つけても、購入リンクを開いて人間が操作する」必要がありました。
今後はAIがこのACPを通じて、次のようなやり取りを自動で行います。
従来 | ACP対応後 |
---|---|
ChatGPTが商品を紹介→外部サイトに遷移 | ChatGPTが商品を紹介→そのまま支払い完了 |
サイトごとに購入手順がバラバラ | 共通の購入フォーマットでAIが処理 |
個人情報・カード情報を毎回入力 | Stripe等の共通決済でトークン化・自動処理 |
ACPは「商品情報の取得」「在庫確認」「支払い」「注文管理」を安全にAI経由でやりとりするためのルール。
OpenAIのInstant Checkoutは、このACPを採用して動いています。
3. 導入パートナー:EtsyとShopifyが先行
最初に対応したのがEtsy(世界最大級のハンドメイド・マーケットプレイス)。
続いてShopifyが参加予定で、世界中の数百万店舗がこの仕組みを使えるようになります。
つまり、将来的には「ChatGPT上でShopifyの商品を検索・購入できる」時代が来ます。
この流れは日本のECにも確実に波及します。
4. Googleも同じ方向へ:AIショッピングの波
一方Googleも「AIモード」を発表し、AIが商品を比較・提案する機能を強化。
たとえば「夏フェス向けの黒いスニーカーを探して」と聞くと、
Gemini(GoogleのAI)が画像検索+レビュー+価格比較を組み合わせて商品を提案します。
OpenAIとGoogleはアプローチこそ違いますが、「AIが検索結果の代わりに、直接おすすめ商品を出す」
という点で一致。つまり、AIが“新しい検索窓口”であり、“新しいショッピングモール”になる時代です。
5. EC担当者が今すぐやるべきこと
AIが自社商品を正しく理解し、ChatGPTやGoogleに表示してもらうには、
情報をAIが読める形に整える必要があります。
✅ ステップ①:商品データを構造化する
AIは「見た目」より「構造化データ(JSON-LDなど)」から理解します。
まずは商品ページにJSON-LDを埋め込み、SKU・在庫・価格・素材・画像・説明をAIが読めるようにしましょう。
{
"@context": "https://schema.org/",
"@type": "Product",
"name": "K18ゴールド リング - Ever Moment",
"image": "https://example.com/images/evermoment-ring.jpg",
"description": "永遠をテーマにしたK18ゴールドのシンプルリング。普段使いにも結婚指輪にもおすすめです。",
"sku": "EVR-RG-001",
"brand": {
"@type": "Brand",
"name": "Coolish Jewelry"
},
"offers": {
"@type": "Offer",
"priceCurrency": "JPY",
"price": "26800",
"availability": "https://schema.org/InStock",
"url": "https://wamore.city/products/evermoment-ring"
},
"material": "K18 gold",
"color": "gold",
"size": "11号"
}
これでAIやGoogleのショッピンググラフが商品を正確に理解しやすくなります。
将来的にChatGPT経由で購入可能にするには、まずここから始めましょう。
✅ ステップ②:API連携を想定する
ACPを通じた注文は「商品API」「注文API」「決済API」の3要素で動きます。
Shopify等のプラットフォームは自動対応が進みますが、独自ECの場合は下記を整備します。
API種類 | 目的 | 対応ポイント |
---|---|---|
商品API | AIが在庫・価格を取得 | 商品ID・在庫数・価格・画像URLを返す |
注文API | ChatGPT→ECへ注文を送信 | 顧客情報・配送先・注文ID・合計金額を受領 |
決済API | Stripeなどと連携 | 決済トークン(Shared Payment Token)に対応 |
6. 広告担当者がやるべき「AIO(AI Optimization)」とは?
AIOとは、AIに理解・推薦されるための最適化。SEOの次の時代の考え方です。以下の内容を整えることで、AIは「信頼できる販売者」としてあなたの商品を優先的に表示するようになります。
項目 | 内容 | 対応のヒント |
---|---|---|
商品タイトル | AIが理解できる明確な表現 | 「ブランド名+カテゴリ+特徴」を含める |
商品説明文 | 自然言語で要約を入れる | 「誰に・どんな場面で」を明示 |
画像情報 | AltタグやEXIF情報を設定 | 「K18 ゴールド リング 横からの写真」など |
レビュー情報 | 構造化して掲載 | aggregateRating と review を活用 |
FAQ情報 | よくある質問を構造化 | 返品・交換・サイズ感・保証など |
ブランド情報 | 公式ドメインと一貫性 | SNSとサイトで文体・語彙を統一 |
在庫更新 | 最新情報を高頻度で反映 | AIは古いデータを嫌う |
価格透明性 | 割引・セール価格を明示 | 定価とセール価格を分けて構造化 |
SNS連携 | ブランドの一貫性 | プロフィール文と商品説明の整合性 |
7. セキュリティと責任のポイント
- 決済データは暗号化トークン(例:StripeのShared Payment Token)で取り扱い。
- ユーザー情報は最小限のみAIに共有。
- 配送・返品・課金・税処理・サポートは、従来通り販売者の責任で実施。
8. これから3ヶ月の実務ロードマップ
期間 | 目的 | 具体的アクション |
---|---|---|
0〜30日 | データ整理 | 商品情報のJSON-LD化・在庫APIの整備 |
30〜60日 | AI対応準備 | ChatGPT/Google向けフィード設計・ブランド情報の最適化 |
60〜90日 | 検証&広告戦略 | AI経由購入の計測設定・AIO施策の開始 |
9. まとめ:AI時代のEC担当者に求められる3つの力
- データ設計力 — 機械に読ませる商品情報を作る
- API理解力 — AIがアクセスできる仕組みを用意する
- AI最適化力(AIO) — “AIに選ばれる” ブランド設計を行う
AIがショッピングの主導権を握る時代。
あなたの商品をAIに正しく理解させることが、次の集客戦略のカギです。
📘 JSON-LD雛形サンプル(ECサイト用・コピペ可)
※各値は実データに置き換えてご利用ください。
{
"@context": "https://schema.org/",
"@type": "Product",
"name": "K18 ゴールド リング Ever Moment",
"image": [
"https://example.com/images/ring01_main.jpg",
"https://example.com/images/ring01_side.jpg",
"https://example.com/images/ring01_worn.jpg"
],
"description": "永遠をテーマにしたK18ゴールドリング。シンプルで毎日着けやすいデザイン。",
"sku": "EVR-001",
"mpn": "EVR-001-JP",
"gtin13": "4901234567890",
"brand": {
"@type": "Brand",
"name": "Coolish Jewelry",
"url": "https://example.com/brand/coolish-jewelry"
},
"material": "K18 Gold",
"color": "Gold",
"size": "11号",
"category": "Rings",
"audience": {
"@type": "PeopleAudience",
"suggestedGender": "unisex",
"suggestedMinAge": "18"
},
"offers": {
"@type": "Offer",
"url": "https://wamore.city/products/evermoment-ring",
"priceCurrency": "JPY",
"price": "26800",
"priceValidUntil": "2026-12-31",
"availability": "https://schema.org/InStock",
"itemCondition": "https://schema.org/NewCondition",
"seller": {
"@type": "Organization",
"name": "Coolish Music株式会社"
},
"shippingDetails": {
"@type": "OfferShippingDetails",
"shippingRate": {
"@type": "MonetaryAmount",
"value": "1100",
"currency": "JPY"
},
"shippingDestination": {
"@type": "DefinedRegion",
"addressCountry": "JP"
},
"deliveryTime": {
"@type": "ShippingDeliveryTime",
"handlingTime": { "@type": "QuantitativeValue", "minValue": 1, "maxValue": 3, "unitCode": "DAY" },
"transitTime": { "@type": "QuantitativeValue", "minValue": 2, "maxValue": 5, "unitCode": "DAY" }
}
},
"hasMerchantReturnPolicy": {
"@type": "MerchantReturnPolicy",
"returnPolicyCategory": "https://schema.org/MerchantReturnFiniteReturnWindow",
"merchantReturnDays": 14,
"returnFees": "https://schema.org/FreeReturn"
}
},
"aggregateRating": {
"@type": "AggregateRating",
"ratingValue": "4.8",
"reviewCount": "56"
},
"review": [
{
"@type": "Review",
"reviewRating": { "@type": "Rating", "ratingValue": "5" },
"author": { "@type": "Person", "name": "Kana" },
"reviewBody": "写真よりも繊細で素敵!普段使いにもぴったりです。"
}
]
}
🧩 AIOチェックリスト(コピー用)
※運用シートに貼り付けて、そのまま進捗管理にお使いください。
カテゴリ | チェック項目 | 状況 | 備考 |
---|---|---|---|
構造化データ | JSON-LDが全商品に設定されている(schema.org準拠) | ☐ | Product / Offer / AggregateRating / Review / FAQ |
商品画像 | altタグ・角度違い・着用写真・サイズ比較画像を用意 | ☐ | AIが理解しやすい命名(例:ring_side.jpg) |
商品説明 | ベネフィット中心の自然言語要約を冒頭に | ☐ | 「誰に」「どんな場面で」「なぜ良いか」 |
レビュー | aggregateRating と review を構造化 |
☐ | スパム対策・悪用検知を実装 |
FAQ | 返品・交換・保証・サイズ感などを構造化 | ☐ | FAQPageスキーマ、カスタマー対応の時短 |
ブランド一貫性 | 公式サイトとSNSで文体・語彙を統一 | ☐ | AIがブランドを学びやすくなる |
在庫・価格鮮度 | 在庫・価格を高頻度で更新(フィード/API) | ☐ | AIは古い情報を嫌う |
価格透明性 | 定価・セール価格・送料を明確に | ☐ | Offer / OfferShippingDetailsの活用 |
露出テスト | ChatGPT / Gemini上で商品名・カテゴリ露出を確認 | ☐ | 表記ゆれ・語彙を最適化 |
計測・帰属 | AI経由注文にメタ(例:channel: acp/chatgpt)を付与 | ☐ | レポート分離・KPI管理(露出率/会話CVR) |
決済・セキュリティ | トークン化決済(Shared Payment Token等)を採用 | ☐ | データ最小化・監査ログ・不正検知 |
まとめ
目まぐるしい動きを見せるAIの世界。どんどんと私たちの生活に浸透しはじめてきていますね。ENCODEでは生成AIを活用して様々なツールを開発してきました。それはいずれも、検索最適化の時代から、デザイン最適化の時代に移行するという考えがあってのことです。
これまでは世界中から自分にぴったりの商品を購入する世界でしたが、これからは、自分にぴったりのデザインをAIと共に作り上げて形にしていく時代と考えています。
生成AIを用いて会話をしながらデザインを作り上げるJewelry Plannerなどはまさにその感じです。入り口の部分はAIで行い、最終的なものづくりは職人がしっかりと仕上げる。ものづくりは無くなりません。
都度都度キャッチアップするのが大変ですが、これからも生成AIの動向を追っていきます。